免許合宿レポートコラム スピードのこっち側 第3話 by 吉本ユータヌキ

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コラムタイトル

結局全く友達ができないまま突っ走ってきた免許合宿も中盤に差し掛かり、孤独にも慣れてきた頃、事件は起こった。

 

なんと、宿泊していたホテルのコインランドリーで同じ教習所の生徒と鉢合わせをしたのだ。僕が優雅に窓際で孤独ランチをしている最中、3mほど離れた窓際で孤独ランチをしていた彼だ。お互いに顔だけ知っているという一番気まずい距離感。

彼はこれから洗濯をするようで、洗濯物の回収しに来た僕がササっと回収してしまえばこの時間を最小限に済ませることができる。そう信じた僕は服にシワが付いてしまうことなんてお構いなく急いで袋に生乾きの服を詰め込んだ。

 

『あのぉ…』

 

彼が声をかけてきた。できればこのタイミングでだけは話かけないで欲しかったが、彼は申し訳なさそうに話し出した。

 

『同じ教習所の方ですよね?』

 

お…おぅ。ここはスッと帰らせて欲しい。ホテルのプライベート感とリラックスの時間にまったりしているのだから。戸惑いを隠せない僕は一言返事をした。

『そうです。』

 

 

 

『もしよかったらお友達になってもらえませんか?』

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友達は欲しかった。ここまで一週間ほど友達を作ろうと自分なりに頑張ってきた。けど、もう諦めたんだ。この合宿は1人の時間を楽しむ為の小旅行として誰とも接することなくのんびりと過ごす為の時間へと心の車線変更をしたんだ。

そんな時に、まさかの告白が飛び込んできた。

 

断ることができず、とりあえず話を聞いてみると彼も僕と同じ大阪から来ているようで、お互いの地元も近くその場で話が盛り上がってしまった。どうやら彼はおしゃべりのようで僕は彼のペースに巻き込まれ帰るタイミングを失ってしまった。

しかし、時折彼の話が何を言っているのかわからない部分があった。お互いに愛想笑いを浮かべ合ったり変な無言が続いたりと一番最悪な感じになってしまっている。今すぐ帰りたい。これ以上話が盛り上がるはずもない。だって彼

 

 

 

 

 

59歳だから。

 

僕の倍の年齢。シンプルにジェネレーションギャップを感じる。たまに説教なんかもされてすごくツラい。

免許合宿ってのは女子大生と仲良くなって華のキャピキャピライフを過ごすものだと思っていた僕の前には『なんで28にもなってなんで免許を持っていないんだ!』と説教してくる59歳の無免許のおじさん。長渕剛のTシャツで。

 

押し寄せる思ってたのと違う感。

 

今すぐ帰りたい今すぐ寝たい感情を全て押し殺し、仕方なくおじさんの話に付き合った。おじさんはつい最近会社をリストラされ無職らしい。新しい仕事を探すためにまず免許を取りにきたらしい。

会社を辞め、新しい仕事を探すためというのは僕も一緒。そしておじさんの59歳で再就職する勇気に感銘を受けた。

少しずつおじさんに心が開けてきた。もっと話を聞いてあげたくなった。

よかったら飲みながら話しませんか?と声をかけた。お酒が入れば気楽に話せるだろうと。

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僕は急いで近くのスーパーに行き、大量のお酒とお菓子、おつまみを買った。

初対面でここまでするのもどうなのだろうかと自分でも思ったがおじさんのこれからを元気づけれたらと思った。おじさんの背中を押せたらなと。おじさんは合宿での始めての友達ができたことと人と話せることを心から喜んでくれていた。

僕がよかったら飲みながら話しませんか?と誘った時のおじさんの満面の笑みを僕は忘れない。


お酒やお菓子がパンパンに詰まった袋を片手に少し緊張しながらおじさんの部屋に向かう。まるでパーティーに向かうかのように。

深く深呼吸し、ドアをノックする。

 

 

おじさんが出てきた。

さっきコインランドリーで会った時よりもやけに外行きの格好をしている。ジャケットなんか羽織っちゃって。粋なおじさんだなと思ってるとおじさんは言った。

 

『他の友達と飲みに行く事になったので今日は遠慮します。』 

 

 

 

僕は当て逃げをされたのだ。

大型トラックに僕の軽自動車のような気持ちが当て逃げされたのだ。もう保険なんか適用外だ。今日だけは飲酒させてくれ。

もう誰も信じれない。そう心に誓った合宿10日目の夜のことだった。

 

つづく

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【雑談】
先日、28歳になる誕生日を迎えました。自分が10代の頃は28歳なんてバリバリに働いて立派な社会人になってるものだと思ってました。けど、今こうして28歳の自分を見てみるとソファにごろんと寝転んでだらだらと原稿を書いてたりするので一寸先の未来はわからないものだなと不思議に思いました。と神秘的に言ってみたものの今のぐうたらな自分を弁護するのに必死です。おめでとう自分!

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